登場人物
- れんと:7歳の少年。キッズレースに参戦する主人公
- ベロヂス:伝説のレーサー「Tartaruga Sônica」の本名
- ルース:最速のチャンピオン。ベロヂスに敗れ後に引退
- トラベッソーラ:過去の大物スポンサー
第5話「語られざるレース」
その翌日、れんとはついにベロヂスに再び声をかけた。
れんと「ベロヂスさん……あの、どうしてあなたがレースから姿を消したのか、教えてもらえませんか?」
ベロヂスはしばらく沈黙したまま空を見つめていた。そして、ゆっくりと語り始めた。
ベロヂス「俺はな、かつて最遅クラス“タルタルーガ”で1勝もできない落ちこぼれだった。誰にも期待されず、ただ静かに引退するつもりだったんだ」
れんとは真剣な眼差しで耳を傾ける。
ベロヂス「そんな時、ルースのスポンサーだったトラベッソーラが声をかけてきた。“ルースと1対1のレースをしないか”ってな」
れんと「えっ、ルースって、あの“最速のチャンピオン”ですよね!?」
ベロヂス「ああ。俺とは格が違う。でも……勝ったら1万ユーロとスポンサー契約、負けたら引退後は雑用係……そんな条件だった」
れんと「ひ、ひどい……」
ベロヂス「でもな、言われたんだ。“お前はピエロだ、ファンを集めるための存在だ”って。悔しかった。だから……出てやった」
れんとは拳を握りしめながら聞いていた。
ベロヂス「レースの日、ルースは俺を舐めてた。大差をつけたあと、ピットに入って……なんと、寝やがった」
れんと「ね、寝た!? レース中に!?」
ベロヂス「ああ。10分で起こせって女のスタッフに言ったらしいが、その子は黙ってた。15分後に目を覚ましたルースは……追いつけなかった」
れんと「……そんな奇跡が……」
ベロヂス「俺は勝った。でもそれは、俺の実力じゃなかった。勘違いされ、伝説と呼ばれ、そして逃げた。俺の勝利は偽物だったからな」
れんとはしばらく黙っていたが、やがてまっすぐに言った。
れんと「それでも、僕はあなたが走る姿を見てみたい。あなたがコーチなら、僕はもっと上手くなれると思うんです!」
ベロヂスは目を伏せたまま、何も答えなかった。
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